Don't Touch!

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2007 Christmas ver. 「Longing for you」 1


 一年の時から、そんなに目立つ存在じゃないけど、なんとなく目で追っていたのは確かだ。
 きれいな端整な顔立ちって、彼女みたいな子のことを言うんだと思う。
 どことなく近寄りがたくて、集団の中にいても、決してその中に染まりきらない雰囲気を持っていて。
 例えるなら、少しつりあがった大きな瞳で凛として佇んで、媚びることを知らないクロネコ。
 笑えば、きっと可愛いのに。
 ずっとそう思ってた。
 そんな彼女が、よく笑うようになって、うろたえる顔とか、不安そうな表情とか、無防備に見せはじめるようになってから、俺は恋に落ちてしまった。

「でも、ダメよ。しおりちゃんは北原くんと付き合うんだから」

 なんだよ! それ。
 っていうか、北原と付き合ってないって噂だけど。

「だから、これから付き合うの! 楠木(くすのき)くん、しつこい」
「しつこいって……だって、付き合うって決まったわけじゃないんだろ?」
「決まってるの!!」

 意味わかんねぇ。
 目の前で、唇を尖らせて俺を睨んでる彼女に、俺、楠木保(くすのき たもつ)は思わず眉根を寄せた。
 いつもあの子、桜井しおりの隣にいる、相沢。
 どうしても桜井と話がしたくて、この相沢になんとか口実を作ってほしいと頼んだものの、現状では理解不可能の答えが返ってきて、正直頭を抱えたくなった。

「とにかく、ぜーったい無理!!」
「わーっ、わかったよっ!」

 いぃっと威嚇するように、白い歯をむき出しにして詰め寄る相沢に、俺は両手を突き出して左右に振った。
 けど、どうしてだ?
 相沢は北原のことが好きだって、女子が話してるのを聞いたことがあるし。
 桜井が北原と付き合ってないから、いろんなヤツラが彼女に告白してるっていうし。
 で、目の前の相沢は、勝手に桜井と北原の未来予想図を描いてて……?

「わかんねぇ……」

 相談した相手が間違ってたか。
 俺はそそくさと逃げるように彼女に背を向け、両手をポケットに突っ込み、溜息をついた。
 女に興味がないといったらウソになる。
 だけど、じゃあ、恋愛ってなると、まだちょっと気が引ける。
 彼女がいるヤツの話を聞けばうらやましいと思うけど、俺にとってはまだ先の話……つい最近まで、そんなふうに思ってた。

「……?」

 中庭の吹き抜けを挟んで向こう側、下の階の窓辺に、随分深刻な顔して下を見下ろす女の子がひとり。
 ふと足を止めて、俺は彼女の視線を追った。

「桜井……?」

 視線の先、クリスマス仕様になった中庭に、桜井、それに私服の女の人がひとり、と。

「あいつ」

 北原伊吹だ。
 成績は常に学年ぶっちぎりトップ。
 人殺しでもやりかねないような鋭い目つきの無表情で、ろくに口を開かない、コイツこそ近寄りがたい変質者。けど、いかにも女子が好みそうな大人顔のイケメンで長身。
 俺はあんなヤツに桜井を渡したくない。
 男は見た目じゃないぜ。
 なんて、負け惜しみか。
 見た目も実力も、アイツに勝てる自信はない。
 しいていえば、スマイルは負けねぇ!!
 自分自身に言い聞かせ、奮い立たせるために、右の拳を強く握り締めてみる。
 ところで、中庭の三人は一体……

「何やってんだ?」

 桜井が中庭から出ようとしたところで立ち止まる。
 その後を追おうとしていた北原に、もうひとりの女が抱きすがった。

 ちょい待ち。

 これって、なんだよ、なんか、ヤバイ雰囲気じゃねぇ?
 俺は窓ガラスにべったり手をついて、中の様子を伺った。
 北原と彼女の姿を桜井は見たのか見ないのか、すぐさま中庭を飛び出していく。

「おい、追わなくていいのかよ、北原」
「何してるの?」

 振り返ると、怪訝な顔をした相沢がこっちに向かってきた。
 すかさず俺は窓の下を指差し、状況を説明する。

「でさ、桜井はさっき出てっちゃったんだよ」
「うそ……」

 俺たちに見られているとは知らず、北原と女は恋人同士みたいに近い距離で向かい合い、何か話をしているようだ。
 隣で同じように中庭を見下ろす相沢は、見る見る顔が青ざめていく。
 さっきの威勢はどこへやら、窓ガラスについた手を握り締めて、不安そうに息を吐く。

「………」

 相沢の横顔に見とれて、俺の胸が一瞬高鳴った。
 こんな時に、何考えてんの、俺。
 その相沢が、目を見開いて声を上げた。

「あっ!」
「な!?」

 驚いて視線を中庭に戻すと、北原の姿が校舎内に消えていくところだった。
 ひとり残された女は、少しの間立ち尽くし、そして、しゃがみこんだ。

「……どーなってんだ?」
「うーん」

 けど、待てよ? 今俺が桜井のところへ行けば、もしかして、もしかして、いいシュチュエーションじゃね?
 俺が思うに、今そこに残された女は、北原の彼女だ。
 だけどヤツに恋する桜井は納得したくなくて、「諦めない!」なんて台詞を残して中庭を飛び出した。
 でもって、「俺、ちゃんと桜井に言い聞かせてくるよ、だからお前はここで待ってて」って北原は桜井を追いかけて、ひとり残された彼女は心配と不安で座り込んでる。
 だから、そこで俺がヒーローみたいに失恋した桜井の前に現れる!
 桜井のそばには、俺がいるから。
 そう言って抱きしめれば。

「なんつって……」
「何、にやけてるの……キモチワルイ」

 相沢から痛い視線を受け止めて苦笑する。

「桜井って園芸部だったよな?」
「うん」
「よく温室にいるって聞いたけど」
「……そうだけど」
「じゃあ、ちょっと行ってくる」

 意を決して進行方向に体を向けたものの、突如手を引かれて、俺はコケそうになった。

「ダメッ!」

 またそれかよ。
 ウンザリして振り返ると、さっきとは違う、不安そうな瞳で俺を見上げる相沢がいた。

「な、なんだよ……」

 俺の手首を握ったまま、一度落とした視線を再び俺に向けて、ただ静かに首を左右に振った。

「けど……もしかしたら、桜井泣いてるかもしれないじゃん。そういう時は、誰かいた方がいいだろ?」
「でも、だめ。行かないほうがいいってば」
「相沢は、北原のこと好きなんだろ? だったら、ライバルがひとりでも減った方がいいんじゃねぇの? それとも……俺のアシ、引っ張るつもりかよ」

 冗談じゃねぇ。
 こんなチャンス、今しかない。
 相沢の力が緩んで、俺は手を振りほどいた。

「知らないから」

 まるで、責めるような瞳でこっちを睨むけど、そんなの、北原に比べりゃちょろい。
 俺はこれから桜井を泣かせた北原を追い払いに行くんだ。
 最後に相沢を見たとき、どういうわけだか悲しそうな顔をしてた。
 女って、やっぱよくわかんねぇ。


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