Don't Touch!
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2007 Christmas ver. 「Longing for you」 3
「それで結局、先週楠木くんが香奈に告白して、めでたくお付き合いを始めたらしいよ」
「へー」
「いいよね……」
「何がだよ」
「あの、ふたり」
「何言ってんだよ、しおりだって伊吹がいんじゃん」
「……楠木くんのマフラー、香奈からのプレゼントなの。プレゼントと一緒に、本当は告白するつもりだったんだって」
「しおりは? 伊吹に何かやるの?」
話を振った私が馬鹿だった。
本日、クリスマスイヴ。
今年は振替休日で授業も本来休みなのだけど、お勉強しなきゃいけない私たちは、いつもどおり学校で机に向かっていた。
疲れた脳内を癒すために中庭に来ると、ちょうど香奈が楠木くんにプレゼントを渡す所に遭遇し、同じく休憩中の川島くんと遠くから見守るようなカタチになってしまった。
楠木くんは隣のクラスの委員長なのだと香奈が言っていた。
中肉中背、どっちかっていうと可愛い顔した男の子で、笑顔が抜群にイイ癒し系。
私が北原のことでバタバタしている間に、香奈は香奈で、しっかり彼を見つけていたようだ。
「おーい、しおりーっ、ついに勉強しすぎて壊れたか?」
ぼんやりと香奈と楠木くんを見つめる私の前に手をかざして、川島くんが言う。
私は深い、深ーい溜息をついて、横にいる川島くんを見た。
「北原から、何も聞いてないの?」
「うん」
「私からのプレゼントは、解答欄が全て埋められた問題集がいいんだって」
「……は!?」
川島くんは、私がそのことを北原に告げられた時と同じように、目も口も大きく開けて驚愕の表情を見せる。
だけど、当事者じゃないから、すぐに声を上げて笑った。
「マジかよ、えぇっ、で、しおりは納得したわけ?」
「………」
愉快に笑い続ける川島くんを睨んで、私は黙って頷いた。
私の反応に、川島くんの笑い声はますます大きくなる。
「うわー、究極のSとMだな」
「なっ、何よ、それっ!」
「そのまんまだよ。それで、しおりはソレ、できたのか?」
「……やったわよ」
川島くんは、ありえねぇー! って体を仰け反らして笑う。
本当は他に何かプレゼントしたいと思ったけど、それを考えてる暇も、準備する時間もなかった。
前回の考査が終わって、約半年ぶりに200番台から抜け出したものの、結果は惨敗、北原のいう100番以内なんて程遠いものだった。
恐る恐る結果を知らせた私に、北原がにっこり笑って差し出したのが、先生方の作ったプリントを寄せ集めた、全教科の手作り問題集。
回答はもちろん北原の手の中だ。
「しおりが伊吹と同じ大学受けるって聞いたときは、絶対無理だって思ってたけど、そうでもないかもしれないな」
まだ笑いがおさまらない川島くんは、不貞腐れた私をみて、そんなことを言う。
でも、こんなのが続いたら、持ちそうにないよ。
自分のレベルにあった学校に行かなきゃ、そのあとが大変だって、よくわかってるし。
冷たい手を少しでも温めるために入れたポケットの中で、ケータイが震え、嫌な予感がした。
取り出し、ディスプレイを覗く。
from 北原
title 無題
そろそろ戻って来い
「なんだって?」
「戻って来いって」
「んじゃ、俺も戻るわ」
白い歯を見せて笑いながら手を振る川島くんに、私も力なく手を振り返す。
ラブラブでアツアツな香奈と楠木くんを見ていると、本当にうらやましく思う。
香奈の手作りマフラーを首に巻いて、ふたりで顔を見合わせて楽しそうに笑って。
恋人同士って、あんなのがフツーだよね。
重く鉛のようになった体を強引に立ち上がらせて、私は北原の待つ部室へ向かう。
北原は、プレゼントした(といえるかどうかわかんないけど)問題集の採点をするから、ゆっくり休んでこいと私を送り出してくれたのだ。
戻って来いということは、その結果が出たのだろう。
今日は楽しいクリスマス、サンタさんが子供たちに夢を配ってくれるはずなのに。
イルミネーションを見ながら、恋人同士は体を寄せ合って愛を語りあってるのに。
「私、一体何してるんだろう」
来年は受験生、なんて、今まで自分にとってはあまり関係のない話だと思っていたけど、突如思い知らされることになった。
私は寒空の下、両手をすり合わせながら部室の前までたどり着くと、木のドアを手前に引いた。
ちりん、と理事長がつけた鈴の音が鳴る。
「ただいま……」
小さな声でそう言って中をうかがうと、テーブルに肘を突いていた北原が顔を上げた。
こっちを見る目が、そんなに厳しくない。
とりあえず、第一関門突破。
恐る恐る近づいて、北原の隣に座った。
冷や汗が滲む妙な緊張感は、歯科医院で診療台に寝かされた時に似てる。
私は、ごくりと息を飲んだ。
「まぁ、よく出来たんじゃないか」
「……ホント?」
口元に笑みを浮かべて、北原が頷く。
じわじわこみ上げてくる喜びを噛みしめる。
思わずにやけてしまう顔を北原に見られないよう、うつむいた。
これで、第二関門突破。
「間違ってる所も、よくありがちな間違い方だし、ちゃんと問題の理解はしてるみたいだから、な」
分厚いプリントの束を一枚一枚北原がめくると、間違ってる箇所にチェックがしてある。
何を見てもいいから、とにかく解答欄を埋めることが条件だったから、私は必死で教科書や参考書、辞書なんてものを引きながら、三週間かけて完成させた。
まさに、汗と涙の結晶!!
横からプリントを覗き込む私のほうを向いて、北原は静かに息を吐いた。
「でも、桜井、これ、一年の問題だからな」
「えっ!?」
「出来て当然。もっと早く仕上がるかと思ってたけど……やっぱり無理だったか」
真剣な顔で頭を抱える北原の横で、私は全身から血の気が引いていくのを感じた。
い、一年生の問題? って、そんなことにも気付けない私って……。
第三関門を突破も何も、撃沈、です。
でも、それならそうと最初から言ってくれれば、なんて思ったけど、教えてくれたところで、やっぱりこれだけの時間は必要だったかも。
「北原、本当にこれがプレゼントで良かったの?」
ふたりで落ち込むような結果のコレが、楽しいはずのクリスマスプレゼントでいいのか、私は正直疑問だ。
確かに北原が望んだものではあったけど、でも、あまりにも色気も何もない。
私の脳裏に、香奈と楠木くんの嬉しそうな笑顔が浮かぶ。
北原はプリントを整えて、表情を変えずにこっちを向いた。
「いいよ。余計なことしてる暇があったら、公式のひとつでも覚えてほしいからな」
「……うん」
私はかなりテンションの下がった低い声で返事をした。
いいよ、なんて言ってくれるけど、別にちっとも嬉しそうじゃないし。
やっぱり、何か用意すれば良かった。
北原が席を立って、私は気付かれないよう、小さく溜息をついた。
「頑張った人には、プレゼント」
そんな言葉に北原のほうを見ると、両手のひらには、お皿に乗った小さなケーキがあった。