Don't Touch!

back top next novel

file2-4


 振り返ると、ホリちゃんがベッドに座って自慢の長い足をぶらぶらさせていた。

「で? エスパーしおりは何を感じ取って私が殺されると思ってんの?」
「あ……」

 ホリちゃんが自分の横をぽんぽんと叩いて、私をそこに座らせるよう促した。

「うん……聞こえたの」
「私を殺すって?」

 私は、促されるまま、ホリちゃんの横に座り、先日この保健室のドアノブから受けた意識のことを話した。
 今日のあの声と、その恐ろしい意識を持った張本人のことも。

「ふうん。じゃあ、別に私を名指ししてるわけじゃないのよね、その人は」
「うん……」

 確かに、そうだけど。

「でも、エスパーしおりの直感では、私がそのターゲットだっていうわけね?」
「ホリちゃん、そのエスパーしおりって、なんか、エスパー伊藤みたいで嫌」
「あ、そう? 私はエスパー魔美のつもりで言ってたんだけど……時代が違うか。だけどアンタもエスパー伊藤なんて、渋い人知ってんのね」

 あのう、話、脱線してるんですけど。

「……ね、ホリちゃん、本当に信じてくれてるの?」
「あったりまえじゃない」

 大きな胸を大きくそらして、偉そうに頷く。
 ほんとかよ。

「だけど、驚いたわね」
「何が?」
「その声の主、彼だってこと」
「……それは、うん」

 私も、正直意外だったんだけど。
 あの人が、あんな風に考えてるなんて。

「そっか……」

 うつむいたホリちゃんの顔色が陰る。

「ホント、まっすぐな気持ちはありがたいんだけどねぇ。保健室の先生もつらいわねぇ。まあ、殺されないにしたって、彼がそういう気持ちであることには変わりないってことよね」
「心当たり、あるの?」

 うふふ、とホリちゃんは笑った。

「おもちゃには、内緒」

 と、私から逃げるように立ち上がった。
 少し複雑になるんだよ、そういう態度。
 ニヤニヤ笑うホリちゃんを見上げる。

「触られたら、聞こえちゃうんだもんね、これから気をつけよぉーっと」
「………」
「あれ、冗談よ、なに落ち込んでんのよ」

 本気で、落ち込んだ。
 それを言われると、冗談だとわかっていても、へこむ。

「私だって、好きでこんな風なんじゃないんだから。それに、触ったからって、別に聞こうと意識してるわけじゃないんだし。……だから嫌だったのに」
「ごめん、しおり」

 ちょっとだけ、泣きたくなった。
 ホリちゃんの性格はわかってるつもりだけど、だけど、悲しい。
 唇を噛んで、ホリちゃんを睨んでやる。

「今までの話、冗談じゃないんだよな」

 不意にホリちゃんの後ろのカーテンが開いて、私は大きく目を見開いた。
 ホリちゃんは驚きもせず、振り返る。

「あれ、いたの?」
「呼び出したの、そっちでしょ」
「あ、そうだった。ごめんごめん」

 彼が突然登場したことに、私は固まった。
 そう、アイツ、私のことを嫌な女って言った、北原……なんだっけ。
 何で、いつからそこにいたのよっ。
 とりあえず、私のことなんかかまわずに、そっちの話を続けてください。
 私はゆっくりと顔をそむけて……。
 と思ったときに、思いっきりこっちを睨まれた。
 動きかけた体が、また縛り付けられるみたいに硬直する。
 相変わらず、痛いくらい冷たい目をしてて。

「桜井」

 いきなり名前を呼ばれた。
 だから、こっちは知らないのに、なんで知ってんのよ。
 私は固まったまま、目だけヤツの方を向く。

「触ったヤツの心が覗けるって、本当なのか?」

 何よ、嫌な言い方。
 ホリちゃんが彼の前に仁王立ちして背の高い彼を見上げた。

「やだ、いつから立ち聞きしてたの」
「別に。聞こえてきただけだよ」
「もう、やらしいわねぇ。ねぇ、しおり」

 あの、そこで私に話を振られても。
 私は引きつった顔を傾けてみる。
 そして、これ以上、話を突っ込まれないようにと、私は祈った。

「いつからだよ」

 げ。
 突っ込まれた。
 それも、なんか、興味持っちゃったみたいな聞き方。
 嫌いな女のことなんか、それ以上詮索しないでよ。
 だけど、その質問に、ホリちゃんも私の答えを待っているようだ。

「たぶん、生まれた時から」

 コイツには言いたくないから、ホリちゃんに答えるように言った。

「子供のときから、意識してたのか?」
「何、が?」

 なんなのよぉう。
 この、質問攻めは。

「それが心の中の声だって」
「それは……誰でも聞こえてるもんだと思ってたし、あんまり意識できなかったけど」

 目だけでそいつのことを見上げると、北原は小さな溜息をついて、少し考えるような仕草をした。
 そして、また全身凍りそうに冷たい視線で、私を睨む。

「俺のこと、覚えてないか?」
「えっ!?」

 いきなり、なんですか。
 こんな冷酷な人造人間みたいな男、私は知らないし、そんな幼馴染はいない。
 真剣に頭の中にある思い出のアルバムをめくっても、アンタみたいな男は存在しないはずだ。

「まあ、傷つけた方のヤツなんて、そんなもんだよな」
「え……」

 静かだけど、吐き捨てるように北原が言う。
 私は頭の中の、役に立ちそうもない思い出のアルバムなんて投げ捨てて、必死で記憶を辿った。
 私が、コイツを傷つけた?


back top next novel

home

Copyright(C) 2006-2007. aoi narumi. All rights reserved.