Don't Touch!

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 気がついたら、私も振られたことになっていた。
 それも、だ、あの北原と宮元先輩のふたりに、立て続けに。
 宮元先輩のことは、とにかく女にだらしない最低な男だという噂が学年中に広まったけど、それもまぁ、今に始まったことじゃないし。
 そんな男に振られたバカな私は香奈とともに、他人の不幸を喜ぶ女友達にえらく励まされた。
 泣いたり笑ったりする香奈の横で、わりと冷静に頷いてる私は、みんなにドライだと白い目で見られて、一応悲しいフリをしてみたり。
 面倒だけど、いつもの平和な毎日が、やっと戻ってきた。
 それにしても、あの時、もし先輩の気持ちを聞けたなら、なんて言っていたんだろう。
 私のこの妙な能力も、事件の引き金を引いただけで、いざというとき、役に立たないし。

「しおりちゃん、さっき泣きマネだったでしょ」
「だって、そうしなきゃ、またみんなに何言われるかわかんないもん」

 放課後の教室、私と香奈は向かい合って、くだらないおしゃべりを続けていた。
あれから、ふたりきりで話すことが多くなった。
 いろいろと噂になった事件の真相は、私たちしか知らない。

「けど、香奈は可愛いから、またすぐに素敵な人が現れるよ」

 お世辞なんかじゃなく、私は心からそう思っている。
 宮元先輩とのことが終わって、ひとしきり泣いた香奈は、以前よりずっときらきらしてるように見えた。
 恋すると女の子はきれいになるっていうけど、本当なんだ。
 香奈は少し照れたように笑ってうつむいた。

「実は、もう好きな人、いるんだ」

 桃色の頬を、一瞬で赤く熟した香奈が顔をあげる。

「え!? そうなの?」

 変わり身が早いというか、なんていうか。
 でもまぁ、失恋の特効薬は新しい恋だっていうしね。
 頷いて遠くを見つめる香奈の瞳は、もちろんハートマーク。

「どうして今まで気付かなかったのかなぁって」
「へぇ」
「ところで、しおりちゃんにもう一度確認しておきたかったんだけど」
「ん?」
「本当に北原くんと付き合ってないんだよね?」
「……うん」

 嫌な、予感。

「しおりちゃんが片思いしてるとか、北原くんに告白されたとか、そんなのもないんだよね?」

 私はぶるぶると首を横に振った。
 っていうか……。

「北原くんのこと、好きになっちゃった」
「……うっ、そ」

 なんで、どーして、あれだけヒドイ人とか嫌いとか、おまけにあんなことまでしておきながら、好きになったぁ!?

「本当のこと、堀口先生に教えてもらったの。宮元先輩が言ってたのは誤解で、本当はね、あやのさんが北原くんを好きなったんだって。それで付き合ってたんだけど、あやのさんの留学の夢を、北原くんが後押ししたみたい」
「へぇ……」
「好きだけど、別れるなんて、なんかオトナじゃない? それに、もしあやのさんが帰ってきた時、ふたりともまだ気持ちが変わってなかったらヨリを戻そうって約束したんだって」

 ロマンチックだよね、って目を潤ませて言う香奈に、私はかろうじて笑みを作った。
 こりゃ、香奈は懲りてないな。
 恋する乙女病はいつになったら治るんだろう。

「じゃあ、香奈、恋の成就は今回も難しいんじゃないの」
「うん。でもね、宮元先輩を好きだったときとは全然違うの」

 ふとハートマークの瞳を伏せた。

「あの時は、そばにいれたらそれでいいって思ってた。自分の気持ちを先輩が受け止めてくれたら、先輩の気持ちなんてどうでもよくて。北原くんの言ってたとおり、自己満足だったんだと思う」

 そして、大きな目を輝かせて、こっちが照れるほど真っ直ぐな視線を向ける。

「人としてもイイ女になって、今度は向こうから好きっていわれるくらいになりたい。だから、相手は北原くんくらい、レベルが高いほうがいいの」

 もしかしたら、ホリちゃんの入れ知恵かもしれないけど、そんなふうに考えてるなら、私も応援しようと思う。

「けど、アイツ、性格悪そうだよ」
「そうかなぁ」
「冷酷な目、してるし」
「だけど、格好いいじゃない」

 頭痛い。
 再び瞳をハートマークにして、香奈は神様にお祈りでもするように、手を唇の前で合わせる。
 
「ね、しおりちゃん、協力してね」

 机の上に置いていた私の手に、香奈は自分の手を重ねて、ぐっと握ってきた。
 とりあえず笑って、私は頷いてみる。
 同じ女の私でも、目の前の香奈みたいなことをいう女の子は、わけがわかんないと思う。
 それだもの、北原がわかんないっていうのも頷ける。
最近は、目や口を閉じるみたいに、反射的に意識のトビラを閉じることができるようになってきた。
 これでしばらくは、今回みたいなことに巻き込まれることもなくなるだろう。

「それで、しおりちゃん、本当は倉田先生のことが好きなの?」
「へ!?」

 二人しかいない教室に、私の大きな声が響いた。

「な、な、な、何言ってんの。やだなぁ、もう、そんなわけないじゃん」
「そうかなぁ、だって、いつも温室に行くでしょ。それに、倉田先生と話してるしおりちゃん、女の子の顔してるもん」
「うそ」
「ホント」

 楽しそうに私を見つめる香奈が恨めしい。
 意に反して熱くなる顔を見られては、言い返す余地もない。

「でも、別に香奈みたいに、付き合いたいとかそこまで考えられないよ」
「ふぅん。でも、先生も素敵な人だよね。北原くんには負けるけど」
「あんなヤツと一緒にしないでっ」

 北原なんかと比べられて、ついムキになってしまった。
 香奈が目をまるくして、次の瞬間、声を上げて笑った。

「やーっぱり、誰かと比べられたくないなんて、倉田先生はしおりちゃんにとって特別な人なんだね」
「あのねぇ」
「良かった、しおりちゃんも、ちゃんと恋してて」

 良かったって、何がいいんだか。
 どうにもからかわれてる気がして納得できない。

「今日は温室、行かないの?」
「もちろん、行くわよ」

 本当はこんなふうに香奈に言われて、気持ちが動揺してるから、先生には会いたくないんだけど。
 だけど、ここで行かなきゃまた香奈に冷やかされると思うと、私は思わず行くと答えてしまった。
 これじゃ、思うつぼじゃん。
 情けない。


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