Don't Touch!

back top next novel

8years ago


「めぐみちゃんの上履き、誰が隠したんですか。やった人は正直に手を上げなさい」

 怒った顔して先生が言ってる。
 犯人は、たぶん、わたしの隣に座ってる絵梨ちゃんだ。
 だって、知ってるもん。
 いっつも絵梨ちゃんが先頭になってめぐみちゃんのこといじめてるの。
 めぐみちゃんはおとなしくってちょっとだらしない格好もしてるし、勉強もあんまりできないけど、だからって、どうしていじめるの?
 いじめて、泣かせて、何がおもしろいの?
 
 絵梨ちゃん、何考えてるんだろう。
 わたしは絵梨ちゃんにそっと触った。

『どうしよう、先生にわかったら、どうしよう……』
『でも、いじめられるアイツがわるいんだ、わたしは悪くないもん』
『これが終わったら、どうして告げ口なんかしたかって、またいじめてやらなくちゃ』

「だめだよ、絵梨ちゃん」

 わたしには、聞こえるんだからね。
 絵梨ちゃんは、こっちを向いて口をぎゅっと結んだまま、わたしのことを睨んでる。
 教室の中が、ちょっとだけざわざわした。

「絵梨ちゃんがやったんでしょ」

 はっきりと、絵梨ちゃんを見て、大きな声でわたしは言った。
 悔しそうに、泣きそうな顔してるけど、そうやっていっつもめぐみちゃんのこと、泣かしてるんだもん。
 少しは反省すればいいのよ。

「先生!」

 今度は絵梨ちゃんが大きな声で言った。

「わたし、見ました! しおりちゃんが、みぐみちゃんの上履き、一階のトイレの前のゴミ箱に捨てたの! 私がダメだよって言ったのに、内緒にしてねって言われたから黙ってたのに、私のせいにするなんて、ひどい!!」

 うわぁんと、絵梨ちゃんは大きな声で泣いて机に伏せて顔を隠した。
 きっと、嘘泣きだ。

「桜井さん、本当なの?」
「え……?」
「本当に、あなたが隠したの?」

 先生、何言ってるの?
 怖い顔したまま、わたしに近づいてくる。

「先生、だって、今、絵梨ちゃん言ってたもん。先生にわかったらどうしようって。告げ口したから、またいじめてやるって!」

 先生は、首をかしげて眉毛を真ん中にぐぐっと寄せて、もっと怖い顔になる。

「しおりちゃんの嘘つき! 私そんなこと言ってないもん!」
「言ったよ! だって、ほら!」

 わたしが絵梨ちゃんの腕をつかもうとしたら、横から先生がその手をつかんで上に引っ張った。

「いやぁっ!」

 痛くて、思わず叫んだ。
 そして、先生は、わたしの手を机に叩きつけた。

 なんで……?

 痛かったけど。
 先生、どうして?
 わたし、悪いこと、何にもしてないのに。

 悲しかった。

「いいかげんにしなさい、桜井さん。どうしていつも、そうやって嘘つくの。触ったら声が聞こえるなんて、馬鹿なこともう言わないの! どうして自分のやったことを人のせいにするんですか!」
「………」

 涙が、出た。
 先生の目が怖くて、わたしは何にも言えなかった。
 
 本当のことなのに。
 本当のことだもん。
 嘘じゃないもん。
 ねぇ、なんで?

 それから、いじめられた。
 上履きを隠されたけど、先生はなにもしてくれなかった。
 給食のときも、体育のときも、教室移動も、遠足の時だって、わたしはひとりぼっち。

 嘘つきで、馬鹿な子。
 みんながそう言う。
 先生も、そう言う。

 あの子に触ったら、おかしなこと言われるよ。
 気持ち悪い。

 みんながそう言った。
 先生も私のこと、嫌いなんだって。
 気持ち悪いんだって。

 学校に行きたくなくなったから、おなかが痛いって言って休んだ。
 そうしたら、先生が家に来た。
 お母さんは、先生に一生懸命頭を下げてて。
 先生は、相変わらず怖い顔でガミガミ怒ってて。

 お母さんが泣いちゃったから、また学校に行った。
 ひとりぼっちだった。
 ひとりぼっちなのに。
 たくさんの人の声が聞こえてくる。
 聞きたくないのに。

 ねぇ、どうしてわたしには、こんな風に聞こえるの?

 ねぇ、どうして?


back top next novel

home

Copyright(C) 2006-2007. aoi narumi. All rights reserved.