Don't Touch!

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「北原伊吹」

 マイクの声に、私は思わず反応する。
 この額のかさぶたを作ったアイツ、成績優秀者として表彰されるんだ。
 ホリちゃんが言ってたこと、本当なんだね。
 相変わらず無表情で、睨まれるとこっちが石になっちゃいそうな怖い目をしてる。
 だけど、宮元先輩の隣にならんでも、ひけをとらない雰囲気があった。
 華やかなオーラはないものの、誰にも消されない強い影をもっている。
 先輩と隣り合う姿は、白と黒、陽と陰。

『しおりちゃんも、先輩のこと見てる。だけど、先輩は私のものなんだから。誰にも渡さないから』

 違うってば。
 ステージ上から香奈に視線を移すと、不安そうに私を見ていた表情が、はっとしてまた笑顔になる。
 人気者の彼女って、大変だな。
 私だったら、嫉妬に狂って自滅するのが目に見えてる。
 自分のポジションを確認するために、彼の心を覗き放題で、そんな自分を幻滅しそうだ。
 だから、私は本当の恋なんてしない。

『面倒くせぇな』

 ん?
 あ、隣にいるヤツの声……か?

『早く帰って昨日のドラマのビデオ観なきゃ』

 後ろの、彼女の声……?

『今日の予備校、面倒くせぇ』
『来月は、オレが絶対あの上に上ってやる』
『くだらねぇ、ムカツク』
『帰りにまた、あの店に寄ってこう。店員のオニイサンかっこいいのよねぇ』
『早く帰りたいよぅ。デートなのにぃ』
『あぁ、眠い』

 続けざまに飛び込んでくる意識。
 手首をつかんだままの香奈のものじゃない。
 ざわざわと、まるでみんながお喋りしてるみたいに、聞こえる……。

「……何、コレ」

 耳鳴り?
 違う……頭を締め付ける、何か。
 聞こえ続ける、ざわめきの塊。
 少しずつ、増えていく、大きくなっていく。
 思わず香奈の手を払って、両耳をふさぐ。

「………」

 え?
 香奈が口を動かして何か言ってるのに、聞こえない。

『どうしちゃったの、しおりちゃん』

 代わりに脳に降る意識。
 聞こえない、声が、音が、聞こえない。
 激しくなる鼓動も、全校生徒、先生たちのすべての意識にかき消される。

「いや……」

 聞こえるのは、みんなが秘密にしていたいこと。
 聞かれたくないこと。
 聞こえる私が、悪い……。
 そんなのわかってるけど。
 勝手に人の中に入ってきて、それ以上はダメなんて。
 
 眩暈、気持ち悪い。
 膨大な情報量に頭ん中がいっぱいで、風船みたいに膨らんでく気がする。
 針を刺したら、今にも破裂しそう。
 吐きそうだ。
 前に深くかがんで、意識が朦朧とする中、ついには膝を突いて、座り込んでしまった。
 ああ、嫌だ、みんな黙ってよ。
 お願い、黙って。

『殺ス』

 あ……あの、声。
 誰?
 頭の中をぐるぐる駆け巡る意識の中に響いた、強烈な声。
 間違いなく、あの、保健室のドアノブに残っていた意識の持ち主。

『殺シテヤル』

 強い、確かな思い。
 私は重い頭を上げて、辺りを見渡した。
 香奈が必死で私に話しかけて、クラスメイトも怪訝な顔で私を見下ろしてる。
 先生の一人がこっちに向かってくるのが見えた。
 そうだ、ステージの、アイツ、北原……。

『殺ス』

 やっぱり、アイツ?

『何やってんだ?』

 違う。
 こっちに気付いてるけど、アイツじゃない。

『許サナイ。ドウシテワカッテクレナイ。アナタダケヲ愛シテルノニ。欲シイノハアナタダケナノニ……殺シテヤル』

 見つ、けた。
 それと同時に、真っ白い世界が私を視界を埋め尽くす。
 眩しい強烈な光が、私の意識を奪っていった。


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