Don't Touch! 2

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 周りの全てを信じることができない弱さを私は知ってる。
 私はマイナスの思考を彼のようにぶつけることなく、解放することなく今まで生きてきた。
 それは、自分自身を守るため。誰もが気に入らない、認めたくない個性を排除する世の中で、なるべく目立たないように、標的にされないように怯えていたから。
 叩かれた時の、反抗する能力を持っていないから。
 でも、彼ならどうだろう?
 流されない強い負の意志で、すべてを壊してしまうことなんて、彼にとって簡単なんじゃないだろうか。
 体中を棘に巻かれるような空気が少しずつ和らいで、私は深呼吸した。

「桜井」

 北原の声が、私の目を覚ましてくれる。
 何度か瞬きした後、ふと足元に転がるペンを見つけ、私はその場にしゃがみこんだ。
 太陽は束の間の休憩、薄い雲の向こうに顔を隠す。

「あっち、行って」

 振り返ると、つかず離れずの距離で立っている北原に言った。
 怪訝な顔をしながらも、私の言うとおり、彼は温室のほうへ戻っていく。
 それを確認すると、私は目の前のペンに向き直った。
 モノに残った意識を探すのは、この能力がよみがえってからできるようになったことで、まだ完全に読めるわけじゃない。
 以前、紙片から香奈の意識を見つけたときは、言葉よりも残された感情に自身が支配されて苦しかった。
 指先にペンを触れようとして、私は一度ためらった。

 彼の意思を知ったところで、何になる?
 正義の味方でも、ヒロインでもない私に、何ができる?

「何か、できるかもしれない」

 誰かを愛することよりも、憎むことは簡単で。
 でも、それを続けることは、容易じゃない。
 ココロが休まる時がないのだから。
 私は握った手のひらを、再びペンに近づけ、触れた。
 もしかしたら、これは川島くんのものじゃないかもしれないと、左手は彼が倒れていた地面に広げる。
 ペンをぎゅっと握り締め、私は目を閉じ、頭の中の扉を開放した。
 地面に残る複数の意識は、ストレスと憎しみの塊。
 ぶつかり合うもうひとつの意識を探せばいいのに、それが見つからない。
 これ以上広く深く探そうとすれば余計なものまで聞こえそうで、私は地面から手を離し、ペンを両手で握った。
 川島くんの意識、あの、階段でぶつかった時聞いたものと同じ波長。
 何か、残ってない?

『ドウシテ?』

 見つけた。
 想像していたよりも、ずっと弱々しくて、もろい。
 細く途切れそうな意識の糸を、ゆっくり探る。
 もっと、強烈で破壊的なものだと思ってかまえていた私は少しほっとした。
 だけど。
 その気の緩みがいけなかった。

『俺ヨリモ馬鹿ナクセニ◆×△]√σ=×!ΠЖЯ年下ノクセニЖФ△B=×!?▼○а生意気◇△π=α×!?ЯЭ□ш●ウルサイ煤「▼Лζ=ξ×!√?□○目障リ△=×!△]√σ=×!ΠЖ?□○馬鹿煤「▼Л△=×!?□Э○スグ手ヲ上ゲル低脳ナ集団△Ω=◆Ψш×√!Π?□Z煤I○全員馬鹿ダ△=×!?□○自覚ナシ△=×β!π=α×!?ЯЭ□ш?□○俺ガ思イ知ラシテヤルΩ=◆Ψ△=×!β!π?□○覚エテイロ△=×!?□○絶対二後悔サセテヤル△=△▼Лζ=ξ×!√×!?□○死ネ△=×!?□○全員死ネ△¥ЖФ△B=×=×!?□○殺シテヤル△=×!?□○コロシテヤル△=×!?□○コロシテヤル△=×!?□○コロシテヤル△=×!?□○!!!!!!!!!!!!!!!』

「いやぁっ!」

 私はすぐにペンを放った。
 まるで壊れたコンピュータプログラム。
 終わらない憎しみの言葉。
 頑なで重い塊は、私を黒く渦巻く闇に引きずり込む。

「う…あ…はぁ……」

 目を開いたのに、いつもなら鮮やかに緑色に映る芝生が、暗い色を帯びて見える。
 まだ、夜じゃないし、太陽は雲に隠れていたけど、違う。
 周りから迫る闇は、私の視界をどんどん奪っていく。
 
 苦しい。
 痛い。
 もう、やめて。
 お願い。
 お願い。

 両手から私の頭をめがけて駆け上がる幾つもの棘。
 指先から始まった震えは、やがて全身にまわり、体を包んでいたはずの熱が冷気に変わる。

「おい! どうした?」

 北原の声がする。
 今は、近くに来ないで。

「桜井!」
「こな…い……で」

 口に出した言葉が、北原まで届いた自信がない。
 こんなところ、見られたくない。  ゆっくりと近づいてくる足音。芝生を踏む音。
 闇の中へと奪われそうになる意識の中、私の中に入り込んだ彼の塊がこみ上げてくる。
 私が、私じゃなくなる感覚。
 そして、突然現れた、小さな光。

「『誰か、助けて』」

 私の口から放たれた、男の子のか細い声。
 今にも泣き出しそうで、悲しくて、淋しくて。
 闇から解放された私が落ちたのは、限りなく透明に近いブルーの海。
 底に沈んでいるのは、もうひとりの、川島くんだった。


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