Don't Touch! 2

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 私と北原は、中庭に用意されたベンチにある程度の距離を置いて座った。

「爆破予告?」
「うん……それが、この前のことなのか、それともこれからのことなのかは、はっきりわからなかったんだけど。北原はそんな噂、聞いたことある?」
「確かに、一年があの爆発を起こしたんじゃないかってことは冗談半分の噂になってるようだけど、これからのことは聞いたことがない」
「だよね。でも、適当な理由つけて川島くんを退学させよう、なんてふうにも言ってたの。時間があるとか、そんなことも。どう思う?」
「………」

 口を閉ざしてこっちを見る北原に、私はやっぱり相談すべきじゃなかったかと思う。
 余計なことに首をつっこむなとか、言われそう。
 ……それにしても、沈黙が長い。

「な、何よ」
「都子とは、『絶交』だな」
「……だから、ホリちゃんじゃなくて北原にこうやって話してるんじゃない」

 痛いところを突かれて、私は小さい声でぼそぼそと逆ギレする。
 そんな私を笑って、北原は頭の後ろで両手を組み、ゆっくりと暮れ始めた空を見上げる。

「あれから何か動いてる様子もなかったし、すっかり都子の脅しに怖気づいたのかと思ってたよ」
「別に……」

 そういうわけじゃないけど。
 でも、どうしたらいいか迷ったのは本当だ。

「『誰か、助けて』か」
「あ……」
「あの怪奇現象はなんだったんだ?」

 そうだ、北原に見られたくなかったのに、見られてしまったんだ。
 香奈の時もそうだった。
 相手の感情があまりにも大きすぎて、その訴えが私の体を通して外に溢れてしまった。

「あれは、川島くんの言葉」

 それはまぎれもなく、彼の声だった。
 たぶん、北原もあんな私に嫌悪を抱いたに違いない。
 だって、あんなの、誰が見たって気持ち悪い。

「人間の脳のほとんどは使われてないって言われてるけど、桜井の場合、平均的に使われてるのかもしれないな」
「……?」

 きっと、嫌味だ。
 だけどすぐにピンと来ない私を見て、また北原は笑う。

「その分、普通に使われるはずの部分が、使われてないってことを言ったつもりだけど」
「ほっといてよっ」

 まわりくどい言い方、ほんっとに腹が立つ。

「でも、あんなふうに救助要請されれば、どうにかしたいと思わざるをえないか」

 手を解いて、今度は胸の前で腕を組む。
 北原は呆れてるような、でもちょっとだけ面倒そうな表情で私を見る。
 あの現象をもっと毛嫌いされると思っていた私は、ほんの少しだけほっとした。

「川島なら、朝から晩まで、ずっとあっちで机に向かってるよ」
「え? そうなの?」

 北原のいうあっちとは、別棟の特別講習をやってる教室のことだろう。

「全然見かけないから、学校に来てないんだと思ってた」
「桜井よりも早く来て、遅く帰るから、見かけなくて当然だろ」
「あ……」

 そういうことか。
 何かにつけて、北原は私を落ち込ませる。
 どんどん不機嫌になる私とは反対に、北原は楽しそうに嘲笑ってる。
 性格悪いな、本当に。

「アイツ、蝶になれると思う?」

 突然、何を言うかと思えば、北原の視線は、毛虫がいるミカンの木を向いていた。

「なるんじゃ、ないの」
「無事にさなぎになれたとしても、そこから羽化するかどうかわからない。たとえ、ヒトの手をかけられたとしても、そのまま死んでしまうのもいる」
「どうして、そんなこと言うのよ」

 せっかくこれから変化して蝶になろうとする幼虫を目の前に、不吉なことを言うなんて。

「そう簡単に、誰もが羨むような姿にはなれない。誰かが助けてくれたとしても、それ自体が未来を望んで努力しなければ、苦労も水の泡になるのさ」
「………」
「本当に、桜井はあの芋虫が蝶になるまで、愛情をかけてやる気があるか」
「……ある、わよ」
「桜井さんは、今度は物好きに蛾の幼虫を育ててるって女子に言われても、か」
「……そんなこと、どうでもいいわよ」
「暗くて変なヤツって思われても」
「だーかーらー」
「倉田先生に、俺とつきあってるって誤解されても?」
「そ、それは関係ないでしょっ!!」

 いきなり何なんだ!?
 思わず私は立ち上がって、両手を握りしめる。
 足の指先から頭めがけて全身の血液が逆流していくのがわかる。

「川島を助けるってことは、そういうことだよ」
「は!?」
「手を出したからには、誰からも忌み嫌われるアイツが蝶になるまで付き合わなきゃなんないってこと。一瞬救ってやったって、手を離せばまたすぐに落ちるさ。そうしてる間に、周りはふたりを同類と見なすかもしれない。その視線に桜井は耐えられるのか?」

 そこまでのことは、正直言って、考えてなかった。
 彼の衝動を止められたら、それで終わりだと思ってた。
 ハッピーエンドの物語なら、そう、一件落着、めでたしめでたしで、それから先のことは書かれてない。
 昔話ふうに言うなら、ふたりはそれからもしあわせに暮らしましたとさ、なんてね。
 北原という存在が隣に現れただけで、ひとつの厄介ごとを抱えてしまったと思ってる私は、またひとつそれを増やそうとしてるんだ。

「それでも本当に助ける気があるなら、俺もその同類になるけど?」

 私が言葉に詰まってるのを見て、また北原は楽しそうで。
 あぁ、いつになったら私の高校生活にハッピーエンドが訪れるんだろう。


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